最終幻想記。

日々の雑想や、趣味のこと 日々の中でできてしまった幻想なんかを 綴っていく そんな予定です。予定は未定ですが。

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シーン1 MUZIK SHELL

 アサクサの一角に“MUZIK SHELL”というライブハウスがある。元重機械工作工場を改造したもので、無機質で無愛想な造りになっている。剥き出しのコンクリートの床にパイプイスが置かれただけの簡素な客席。そしてそれに対比するようなやや高めに作られた広いステージ。ステージ上には巨大なアンプが置かれ、大光量のスポットがステージを見つめている。客席の隅には壊れかけた旧型の自動販売機があり、アルコールとソフトドリンク、そして合法ドラッグが売られている。
 客の入りは上々。このライブハウスの唯一の取り柄である広大なフロアの70%ほどに客が入っている。あまりお上品なのはいないが、客層は様々だ。ステージに近いほど柄の悪い“キッズ”が多いようだが。
 ウオオオオ!
 ザワついていた客達から歓声が上がった。一組目のバンドがステージに上がったのだ。
 “ブルーストン”。最近売り出し中のインディーズバンド。ボーカルのマコがギダーを兼任し、ベースのJUN、ドラムのキョウジを中心としたハードロックを得意とした集団。
 が、ステージにはキョウジの姿がみえず、メンバーが黙々と準備を始めた。
「オイオイ!キョウジはどうしたよ?ヤル気あんのかぁ?あぁ?どうなんだコラ!」
 観客席からヤジと、ついでに紙屑やゴミも宙を飛ぶ。
 やや手持ち無沙汰気味に立っていたマコがマイクで話しかけた。
「キョウジはまだこちらに来ていない。そのかわり助っ人を頼んだ。準備ができたらプレイする。本気で。だから、もうちょっと待って」
 少年っぽいマコの声がアンプから流れたが、客のうちの一人が負けじと声を張り上げた。
「キョウジ抜きの“ブルーストーン”なんざクズじゃねぇか!」
 彼の言葉は事実だった。キョウジがプロデュースし、彼のテクに引っ張られて伸びてきたバンドなのは間違いない。だが。他のメンバーにしても努力していまでは実力も十分なものになりつつある。客のヤジは彼が思うよりずっと残酷なものだった。
「それにキョウジのかわりつとまる奴なんかいるのか?いねぇだろうが!すっこみやがれ!」
 自分の言葉にヒートアップした客が罵声と共に中身入りの缶コーヒーを投げつけようとした瞬間。
 デカい銃声が一発響いた。缶は鉄くずになり、コーヒーでずぶ濡れになった男は呆然とドラムセットを見つめた。
 誰もいなかったハズのその場所から紫煙が立ち昇っている。そこには露出の高い黒いレザーの上下に身を包んだ背の高い女が立っていた。金と黒のメッシュの長髪、左手にはスティック、右手には大口径ハンドガン。そして何より目をひきつけるのは、銀色に光るサイバーアーム。
「今日のゲストはあたしだ。ナンか文句あっか?」
 気の強そうな美貌に自信の笑みを浮かべてその女が言った。
「ぎ…銀腕の烈音(レオン)……」
 レオンと呼ばれた女はドラムに陣取ると、スティックを翻した。
 強烈かつ高速の、イミのない連打。そこには技術も何もない。ただその音量と速度だけでライブハウスに集まった客を圧倒した。そしてそれはまばらになり、一定のリズムを刻み始める。マコが振り返り、レオンと目配せを交わす。
 マコの清冽な声がライブハウスを切り裂く。
「いくぜ!“ヒステリック・マカーブル”!!」
 絶妙のタイミング!客はつりこまれ、そして前奏が滑り込む。
 ウオオオオオ!
“MUZIK SHELL”は本気の音を拒まない。
 そして今夜も熱い音の奔流。

 2時間後。レオンは控え室に戻っていた。そこへマコが訪ねてきた。
「サンキュ、レオン。助かったよ」
「ん、いいよ。たまにはあたしもアンタらとやりたかったしね」
 着替えをすませたレオンはGパンにTシャツ、“MUZIK SHELL”のロゴの入ったレザージャケット。金髪のウィッグを化粧台に放り出し、黒髪をタオルで手荒にかき回している。
「コレ、礼ね。あとこれも」
 プリペイドカードをレオンに手渡すと、マコはレオンの頬にキスをした。途端にレオンの顔が赤くなる。
 「かぁいいよ、アイリちゃん?」
 マコがイタズラっぽい口調でからかうと銀色のパンチが空を切った。のけぞってかわしたマコは満足そうな笑顔だ。マコとレオンは古馴染みだ。こういうやりとりも、バンドの助っ人も茶飯事なのだ。
「本名で呼ぶなっつってんでしょ。」
 うつむき、タオルと髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
「アハハ。ゴメン。でもサ、オレちょっと自信出ちゃったよ。キョウジには悪いけど奴ヌキであそこまでやれたんだぜ?」
 無邪気に笑う。
「で、キョウジは?」
 複雑そうな表情をうかべ、レオンが問いを発した。
「キョウジのことはアイリーン姐さんに頼むことにしてる。レオンにばっか迷惑かけらんないだろ?…って、JUNが言ってた」
 神妙な顔でそう言ったマコを心配そうにレオンが見ると、マコが表情を明るいものに変えた。
「岩見のおっさんが探してると思うから、オレはこれで。じゃね、アイリちゃん♪」
 マコが閉じた扉に苦笑を向けながらレオンは立ち上がった。チケットの集計を手伝う約束をこのハウスのオーナーとしていたんだから仕方ない。生活のためでもあることだし、他のバンドの演奏も聴きたかったけれど。つい、ため息とグチが出た。
「あーぁ。今夜も徹夜かぁ」





用語解説

合法ドラッグ

この時代ではもはやドラッグは氾濫といっていいレベルで出回っている。それらの中でも依存症が起こりにくいもの(起こらない物はごくわずか)は合法、と認められている。なぜか。N◎VAを運営しているのは、この町に存在する巨大企業の代表者からなる評議会だからである。つまり、カネになるならば企業に問題がない限り合法化される、というわけだ。

キッズ

この時代の子供たちの中には自分を暴力でしか表現できない者もいる。いつの時代でもかわらないことだが、ドラッグやサイバー技術などにより、振るうことができる暴力は大きなものになっている。
キッズギャングや暴走族。ほかにもいろいろな形態のものがあるが、子供たちのやることとはいえその規模は現代とは比較にならない。

プリペイドカード

キャッシュ、ともいう。今で言う無記名小切手のようなもの。
この時代ではもはや貨幣は過去の遺物だ。紙や金属の板切れよりも、数字を信用する。
個人認証やセキュリティの問題が相当に解決されているので、この時代の人々は決済にはキャッシュカードやクレジットカードを主に使う。
だが、これらを使用すると使用者の記録が残ってしまう。
そうならないほうが良いときはプリペイドカードを作成しこれを直接授受する。こうすることで知られたくない取引を(いくらか)安全に行うことができるわけだ。
(ゲーム上では報酬点として表現される「あの」数字のこと)

アイリーン姐さん

アイリーン・タミヤのこと。公式設定NPC.
典型的ロック姉さんとして描写させていただく。
彼女は自分の心を震わせることがあるならば、下町のライブハウスでも歌を披露する。かつてそういうことがあったのだろう。この物語では彼女も歌を披露することがある、としている。

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Comment[この記事へのコメント]

 

  • shin 
  • URL 
  • at 2007.07.10 00:36 
  • [編集]
オオ!SFチックな、サイバーパンクでしょうか?ねぎさんカッコイイ文章書くねえ^^

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